細菌の16S rRNA遺伝子を用いた系統解析による同定結果の解釈

細菌分類学において16S rRNA遺伝子 (16S rDNA) に基づく分子系統解析は、分類階級「門、綱、目、科、属、種」を推定するための根幹となる方法として使用されています。当社の16S rDNA解析では、①当社細菌基準株データベースと国際塩基配列データベースに対する相同性検索結果 (BLAST)、②分子系統解析の結果を基にした同定結果をご報告しています。本コラムでは16S rDNA解析により種または属レベルでの同定結果が得られる際の判断基準を紹介します。

1) 種レベルでの同定結果が得られるケース

Stackebrandtら1) が提唱した16S rDNAに基づく種の異同の判断基準において、「16S rDNA塩基配列 (約1,500 bp) の相同率が98.7%以下を示す菌株同士は、別種である」とされています。しかし、「同種であること」を判断できる境界線は定められておらず、1塩基でも明確な相違が認められる場合は別種である可能性を考慮する必要があります。したがって、種レベルで同定となるケースは以下の場合に限られます。

  • 相同性検索結果において、塩基配列が検体と100%の相同率を示す既知種が存在する場合
  • 相同率上では99.9%以下であるが、相違箇所が混合塩基や挿入欠損であり、明確な相違が認められない場合

どちらかに該当する場合、A,Bのように分子系統樹において、検体と同一の分子系統学的位置 (既知種との間に横枝が無い状態) を示す既知種が存在します。

同定結果:Pseudomonas aeruginosa

同定結果:Staphylococcus succinus subsp. succinusに帰属する可能性のあるS. succinus

また、「種」よりも低次の分類階級として「亜種」が存在する場合、16S rDNA解析に加えて機能性遺伝子解析や生化学性状試験などに基づき分類が行われていることから、16S rDNA解析のみで亜種の同定を行うことは困難です。しかし、亜種間の16S rDNA塩基配列が数塩基異なる場合、例えば図1-Bのように、検体BはStaphylococcus succinusの2亜種の内、塩基配列が100%一致したStaphylococcus succinus subsp. succinusに帰属する可能性があると判断することができます。 

2) 種レベルでの同定が難しく属レベルとなるケース

1) で述べたように、既知種に対して1塩基でも明確な相違が認められる場合は別種である可能性を考慮する必要があり、種レベルでの同定を行うことが困難になります。そのような場合、次に「種」の上位の分類階級である「属」レベルで検体を同定できるかを検討します。属レベルでの同定となる場合は以下の通りです。

  • 相同性検索において、検体と100%の相同率を示す既知種が存在しない場合

  • 分子系統樹において、検体の周囲に特定の属の細菌がクラスターを形成する場合

いずれにも該当する場合、分子系統樹において、検体と同一の分子系統学的位置を示す既知種が存在せず、既知種のいずれに対しても距離 (系統樹の横枝) が認められます。さらに、検体は特定の属が形成するクラスターの中に含まれる場合に属レベルで同定されます。

属レベルでの同定結果となる系統樹の樹形の例

16S rDNAに基づく分類が始まり約40年が経過した現在、国際的に承認されている細菌の種数は15,000種を超えており、一般的な環境サンプルから分離される菌株の多くについては、属レベルまたは種レベルでの同定結果が得られるようになっています。近年、ゲノム解析の進展により細菌の分類体系の整備がますます進むことが予想されますが、16S rDNAに基づく同定方法は、迅速さや再現性の面から今後も細菌分類学の基礎試験として使用され続ける方法と考えられます。そのため同定結果の解釈の理解を深めることは、研究や日々の衛生管理の業務に役立つと思います。

参考文献

  • (1)

    Stackebrandt E, Ebers J. Taxonomic parameters revisited: tarnished gold standards. Microbiol Today 2006;33:152–155.

*当社の試験項目と同定結果の関係

試験項目

塩基配列長 (bp)

判定基準

16S rDNA-500
16S rDNA-500 Rapid

約500

本コラムと同じ基準で結果を判定しています。ただし、16S rDNAの部分配列での解析となるため、追加試験で16S rDNA-Fullを解析した場合は、結論が変わる可能性があります。

16S rDNA-Full
細菌Premium

約1,500

本コラムと同じ基準で結果を判定しています。

分子系統解析 (16S rDNA)

約1,500

本コラムと同じ基準で結果を判定しています。